MISSION×TARGET

みっそん×た〜げっと

ミッション×不良カップルを追え!

良く王道とか何とかで言えば、男子校の副会長は腹黒で愛想笑いが上手いとか。
然しながら我が帝王院学園に至っては、高等部に於いてのみ事情が違ったりする。何せ高等部中央委員会現副会長である彼だけが、他のどの副会長とも毛色が違うからなのだ。

まず、大学部自治会の副会長。会長がとんでもなく王道真っ直ぐな俺様であるのに対して、副会長はアメリカからの留学生でハリウッド俳優。然もまだ17歳、つまりスキップらんらんらん〜。
ハリウッド俳優が何で日本の大学に通ってるんだ、と言う疑問は帝王院七不思議の一つだったりするよ。ま、実際のところ彼の双子のお兄ちゃんが何故か日本の学校に入学したらしく、それを追って来たとか。お兄ちゃんが大好きらしい超美形な彼は、未だに双子のお兄ちゃんを探しながら俳優活動中らしいよ。
さて、そんな彼は愛想だけは良いものの、やはり百戦錬磨のハリウッドスター、実際のところ俺様会長に匹敵する性格の悪さだと各生徒会には公然の事実。つまり、腹黒。
中等部の自治会も似たり寄ったりで、会長は偉そう、副会長は腹黒いパターンが定着してたりする。のに。


「嵯峨崎の野郎、いっぺん頭蓋骨叩き割ってやる!」
「お心静かに光王子様っ」
「お待ち下さい閣下っ」
「抱いて下さい光王子様っ」

帝王院学園抱かれたいランキング総合一位、中央委員会副会長の高坂日向先輩をこっそり見つめながら、僕は心臓をこっそり抑えた。
明らかに不機嫌な彼を健気に追い掛ける小柄な生徒達は副会長親衛隊のメンバーだろう。中にはクラスメートが見えた。

現在三年生の彼は御三家の一人、光炎の君と呼ばれていて、皆からは光王子と崇められてる。キランキランの金髪だからね。
見た目はブルジョア、中身エキゾチックな超最強の俺様って感じ。判るかな?僕は彼を帝王院最強の『俺様受け』だと思ってるよ。
凄いマイナーなのは判ってるんだけどね、もう腐男子駆け出しの頃みたいに王道イズベストな考え方が出来ないんだよ。何せ足掛け十年以上の年季入った腐男子ですから!

「退け!咬み殺すぞテメェら!」
「光王子閣下!」
「お待ち下さい閣下!」
「光王子様ぁっ」

イギリス系ハーフらしい見た目は英国紳士な彼は、その荒み切った眼差しと荒々しい言葉遣いで台無し過ぎた。半泣きで追い掛けてく親衛隊の皆には悪いけど、放課後の教室か体育倉庫に連れ込まれて輪姦されてしまえば良いのに、と。僕は本気で呟いたよ。
男らしいのは受けのチャームポイントだけど、偉そう過ぎては駄目だね。何事も程々に。ご利用は計画的に。


「今日は一段と不機嫌そうだったなぁ…」

あれで中々人が出来てる王子は、八つ当たりとかする人間じゃなかった筈だ。と言う事は、十割十分、紅蓮の君絡みだね。
二年生、つまり僕のクラスメートである嵯峨崎佑壱君。偉そう、と言うよりは僕らを見下してる感じの、いや、もしかしたら眼中にすらないかも知れない無気力系ヤンキー。
副会長の感情を刺激出来るのは彼くらいだよ。
何せ腹黒通り越して鬼畜を極めた風紀委員長にいじられても、王子様は眉一つ動かさないんだから。


「あーあ、何があったのかなぁ。敵対する不良グループの副総長同士だから、顔を合わせば喧嘩三昧だもんな…」

中央委員会書記でもある嵯峨崎君は、授業にも委員会にも姿を現さない。
たまに、たまーに、数学とか物理とか理数系だけ授業に参加してるけど、基本的に寮内にすら居ないらしい嵯峨崎君は無断外泊万歳の超極悪不良だ。然も中央委員会はABSOLUTELYって言う最強不良グループのメンバーが殆どで、カルマって言うグループの副総長である嵯峨崎君は当然委員会に足を向ける訳もなく。

風紀委員長と中央委員会会計を兼任してる御三家の一人、三年生の叶二葉先輩が書記も兼任してるとか。
光王子と並ぶと悲鳴が止まらなくなる見た目は美人な彼は、優雅過ぎる立ち振舞いや外見から白百合って呼ばれてる。でも、実際は笑いながら人を殺す様な超危険人間だよ。

近寄りたくない人ナンバーワンだね。


「ああ、光王子を見たのにあんまり萌えなかった…」

はぁ、と溜息一つ。
何気なく窓の外を見つめて、廊下の窓に張りついた。


「あれ、って…」


目が潰れそうになるくらい、
同じ人間とは思えないくらい、
つかアレってCGグラフィックじゃないの?と、疑いたくなるくらい。

綺麗で格好良い長身銀髪美人が、モサモサをお姫様抱っこして歩いてる。

「もっさもさだ」

もっさもさの何か、ああ、黒縁眼鏡も見える。もさもさした何とも言えない何かを抱っこしたまま、すいすい歩いていくあの美し過ぎる男の人には見覚えがない。全く知らない。
但し、あの銀とも白銀とも讃えたくなるプラチナブロンドには心当たりがあるんだよ。
多分、帝王院中の皆が僕と同じ事を考えるんじゃないだろうか。


「神帝陛下…?」

滅多に人前に姿を現さない神様こと、帝王院学園中央委員会の生徒会長である帝王院神威様。恐れ多くて先輩だなんてとても言えないよ。
いつも仮面を付けてるから誰もお顔を見た事はないだろうけど、帝王院の半数以上の生徒が彼の親衛隊だ。何も彼もが規格外。抱かれたいランキング抱きたいランキング、どちらも二年連続ダブルスコアで一位、今年は殿堂入りでランキングに載ってなかった。

「勘違いだよねぇ?駄目だな僕は、秋葉原で安売りしてそうな眼鏡っ子を神帝陛下が抱っこする筈ないでしょ…」

でも今の凄まじい美形は美味しい…。無愛想通り越して無表情だった所もポイント高いね!
何の取り柄もなさそうな平凡攻めから口説かれて、嫌がってたら実は非凡だった攻めに攻められまくって喘がされまくって、溺愛されてしまえば良い!嫌がりながら次第に愛される快感に目覚めちゃったりして、でも今までのプライドとかしがらみとかで素直になれなくて、ツンデレ真っ青な俺様っぷりを発揮すれば良いよ!ハァハァ、そんな受けを平凡な癖に包容力ばっちりな攻めがにこにこ可愛がってあげるんだ!萌え、萌えるじゃまいか!けしからん、非常事態だよ!僕の脳内がハザードレベル4だよ!危ない危ない危ないヒットポイント残り1!
俺様受け平凡攻めどっちも大好きです!けしからんもっとやれ!今すぐに妄想よ実現しろ!神様翼を下さい僕の妄想に!


ハァハァハァハァハァハァ、


「はっ!」


いつの間にか校舎から遠く離れた寮の中に居る事に気づいたよ。ああ、僕の足に翼が生えたのかな?
困ったね、妄想しちゃうとコントロールが効かなくなっちゃうから主に理性の。

こんな時、ポーカーフェイスって便利だよね。
僕が腐ったのって、物心付く前に妻を亡くした父が再婚した相手、つまり今の義母の影響なんだ。
生後3ヶ月くらいで母を事故で亡くした僕は、男手一つ…と言うか、ベビーシッターさんに育てられて、初めて覚えた言葉が『かーちゃん』だったらしい。シッターさんの名前が『かよ』だったからだと思うんだけどね。

それを聞いた父が男泣きに泣いて、僕が二歳になる前に再婚。
新婚から一転、子持ちになった今の母さんが僕をとっても可愛がってくれて、未だに夫婦ラブラブだけど一人っ子な僕は、昔から母さんにべったりだった。で、母さんってばオープン過ぎる腐女子だから、息子の前でもごろ寝しながらBL漫画読むの。で、僕にも絵本の代わりに読み聞かせちゃったりしてね。
五歳になる頃にはうっかり立派な腐幼児誕生だったわけ。


帝王院学園は男子校。ホモ三昧。
お母様、迷わず僕は旅立ちます。ああ可愛い息子どうか達者で。
と、満面の笑みで進路を決めた母子に、生まれ付きお金持ちだった所為かド天然な父さんだけが何にも気付いてなかったよ。
仕事帰りに母さんから頼まれたBL小説を迷わず買ってくる父さんが、僕は大好き。BLグッズを集める為にアルバイトしようかな、と零したら月の小遣い増やしてくれたり。結婚記念日に、

『ブランドバッグより新刊の印刷代が欲しい』

と、おねだりした母さんにクレジットカードを手渡した父さんは、僕と母さんの二人から『天然受け』と呼ばれてるのに気付かないプリティパパだ。可愛いでしょ。


「おい、馬鹿山田。んな隅っこ歩いてんじゃねぇ」


!!!


「ただでさえ視界に入らないんですから、せめて後ろを付いてきて下さいね」

廊下の隅に張りついた僕の前を、赤い長髪のイケメンと濃紺髪の美人が通り過ぎる。
赤い長髪の長身が紅蓮の君、つまり僕のクラスメートにして首席の嵯峨崎佑壱君。その隣の、同じく長身でアジア最高峰の美貌が一年生の錦織君。どちらも美形万歳。

「左側通行は一般常識じゃないのかなー、とか、思ったり」

そして、僕の本当に目の前をちょぼちょぼ歩いていった小柄な彼が、一年生の山田太陽くん…やまだ!ひろあき!くん!
平凡中の平凡としか褒めようがないっ、やまだ!ひろあき!太陽と書いてHIROAKI!
リピートアゲイン、HIROAKI!
ひろあき!ヤマダヒロアーキ!
ひゃっほー!ドンドンパフパフ!愛してるよっ、オジサンはこの学園の平凡攻めナンバーワンの座を君に快く譲り渡してるから!久し振りだね山田君!実に春休み二週間振りだね!

「ったく、トロトロ歩いてんじゃねぇぞ短足が」
「ユウさん、外見の特徴を言ってはいけません。誰しも欠点はあるんですから。例え山田君に褒められる点がないからと言って」
「心が折れそうだよねー」

去っていく三人を追い掛けていく僕を許してポリス、いや風紀委員会。これはストーカーじゃない、パトロールなのだから!
山田太陽君を遠過ぎず近過ぎず、程よい位置から見守り隊隊長の僕の日課でしかないのだから!春休みの分、今から戴きます!


ああ、愛しい山田太陽君。
中等部だった君も、今日から高校生か。おめでとう、去年より大きくなったね…うん、知ってるけど。君に出会わない日は殆どなかったものね。だって君は、風紀から見事に睨まれてる特一級指名手配生徒だものね。


「あ、あれシノ先生?」
「あ?誰だ?」
「東雲先生ですよ、ユウさん」

美形教師に近付いていく三人を眺めながら、各生徒会に手配されてる山田君を生暖かく見つめる僕。広いおでこを惜しみなく晒す山田君、君に決めた!さっきの超絶美形銀髪君と山田君!君らカプで妄想旅行に行ってくるから、お土産待っててねっ!

「ん?何か誰かに見られてるよ〜な?」
「自意識過剰だコラァ、死んで償うかミニストップが」
「貴方なんかに気づく物好きは風紀委員長くらいですよ。砂漠に落ちたコンタクト」
「あはは、…誰がチビだと?」



神・様!
僕の山田君が不良相手に吹雪いてます!男らしいです!感動で前が見えません!一体この春休みの間に何があったと言うんですか!僕の知らない山田君に何の薬品を混ぜたんですか!凄まじい化学反応ビッグバンっ、小さいけど大きい君に夢中さ山田君!僕はもう首ったけ松茸ハァハァ有りったけ☆!

「黙って聞いてりゃ好き勝手ほざきやがって、俺が短足チビでお前さん方に何か迷惑掛けたっつーのか、え?」
「いや、」
「あの、」
「誰が黄色いコンビニで誰がミジンコだと?もっかい言ってごらんほら、あぁん?ガタガタガタガタ立て付け悪いドアかお前さんら、教室の窓から吊して黒板消しも真っ黒になるほど叩きつけてやろうか、あ?」

叩くな危険!
黒板消しは叩かずクリーナーに掛けなきゃ破れちゃうよ!布地だもの!

「チョークの粉塗れにしてからガツガツ叩きつけてやる…」
「「…」」
「ヤンキー如きが庶民舐めてんじゃねーっつー話。…死にたい奴から吊されてみよっか、ああん?」

ああ、僕の山田君が大変な事に!
貴方が落としたのは小さい山田君ですか大きい山田君ですかそれとも男らしく腹黒い山田君ですか?はい全部!それ全部僕の山田君じゃまいか!

小さいの大きいのどっちも好きです。中くらいも受け入れます、何せ平凡が既に中途半端!綺麗なの不細工なのいいや普通なんですっ!素敵だよ僕の山田君!湖に落ちたら増える山田君!一家に三台山田君!宮城に仙台山田!それじゃ住所じゃまいか、落ち着こう僕。小さいの大きいの中くらいの全部好きです。大好物です。大中小揃ってお買い得です。
もうっ、男前なんだから山田君!平凡な憎い奴、だけど憎めない君にオジサンは涙と鼻血と他の汁が止まらないよ!



「「すいませんでした」」
「ちょっとデカイからって図に乗んなよ、駄犬共が…」


けしからんもっとやれ!
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©Shiki Fujimiya 2009 / JUNKPOT DRIVE Ink.